ハウスメーカーとどう違う?――地域工務店の役割と実際に迫る!

注文住宅を建てようと思ったとき、顧客はどこに注文しようと考えるでしょうか。代表的なのは「ハウスメーカー」と「工務店」ではないでしょうか。どちらも、家を建てたい人の依頼に応じて設計プランを立て、家をつくり上げる点で変わりはありませんが、どこに違いがあるのでしょうか。その人にとってはどちらが合っているのでしょうか。ここでは、それぞれの異なる点や選ぶ際のポイントなどについて、広島大学の角倉英明准教授に話を伺いました。

広島大学大学院
工学研究科
建築学専攻
角倉 英明 准教授

すみくら・ひであき。
1977年東京都生まれ。
2008年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。博士(工学)。国土技術政策総合研究所住宅研究部住宅生産研究室、(独)建築研究所建築生産研究グループなどを経て、2016年より現職。専門分野は建築生産・建築構法。

■工務店とは?

工務店の「工務」とは、工事をつかさどる(=マネジメントする)ということを意味し、国内では昔から棟梁(親方)がいて、建築に関するすべてを取り仕切ってきました。簡単に言えば、この棟梁が発展した形が工務店であり、職人や専門の工事業者を取りまとめて工事を施工する業者(会社)のことを指します。
こういった工務店は規模が大きくなく、分業度合いが低いため、注文住宅をつくる際に契約・設計・施工・引き渡しまでのすべて、もしくは各場面のいずれかに必ず社長(代表)の存在があります。そのため、社長と顧客(施主)が各場面で直接やり取りを行い、両者の接点が明らかに濃密なことが最大の特徴です。
戦後、420万戸の住宅が不足していた国内では、昭和20年代半ばから建築関連の法整備が進み、建築の産業としての基礎が築かれていきました。そんな中、技術を磨いた大工や棟梁が社長となって組織をつくり、工務店の看板を上げていきました。そうやって戦後に登場した工務店は、現在では二、三代目の時代になり、職人にならずに大学出の人が跡を継ぐようになっています。
かつての工務店は、工事をする技術や能力は高いものの、設計力やデザイン力が不足している点が指摘されていました。しかし、現在の工務店は社長自身が大学の建築学科でデザイン教育を受けていたり、社内に専属の建築士を置いている会社も多く、設計やデザインの面でも劣ることなく品質も性能も良い住宅づくりをしている会社が数多くあります。
工務店は、工事を下請け会社へ丸投げすることもなく、長く深い付き合いの職人と協力しながら、自社の目の届く範囲で工事を着実に進めていきます。そうすることで管理が行き届くため、品質の良い住宅が出来上がります。また、設計や施工を自社で行えば、設計料も外注の経費などがかからないという価格上のメリットもあります。

■工務店とハウスメーカーの違いは?

工務店では、顧客が希望する製品や材料を組み合わせることや、建築家の考えを十分に取り入れることができます。例えば、気に入ったシステムキッチンを使うことやオリジナルキッチンをつくることも可能です。顧客と膝を突き合わせながら一緒につくるからこそ、プランの自由度や柔軟性が高く、顧客の希望をかなえやすいのが工務店の家づくりの特徴です。
ハウスメーカーとは全国規模で広く展開する住宅会社のことで、企業規模も大きく、きっちり規格化して、商品として住宅をつくったり売ったりします。ハウスメーカーの多くは、住宅展示場に自社のモデルハウスをオープンしています。その点、工務店はある程度の決まりや得意不得意はあるものの、間取りや外観などのプランを顧客と一緒にゼロからつくり上げることができます。
ハウスメーカーは「大人の組織」であり、細かくルール(規格)が決まっているため、不安定なことが起きにくいのがメリットです。例えば、省エネや耐震などの住宅の性能に関しては、国が誘導している高い水準を目指していることが多く、平均点が高くて性能のバラつきが少ないという安心感があります。一方で、通常、用意されている住宅商品から選ぶため、ある程度の変更はできるもののどうしても制約があります。
これらを克服するさまざまな取り組みが行われていますが、工務店に比べると、自由度は低くなり、住まいへの思いやこだわりが具体的で細かく強い人には、希望にぴったり沿った住宅商品には出合えないこともあるかもしれません。

■工務店に依頼するメリットとは?

会社の社長(代表)に直接会ってコミュニケーションが取れ、人間関係を築いていけることが工務店に依頼することの最大のメリットです。「社長の顔が見える」。これほど顧客にとって安心感があることはないと思います。
また、住宅づくりは現場での対応力がものを言います。社長がその場で即断できる柔軟性やスピードはハウスメーカーより高く、デザインされた住宅をつくる職能を使いこなせる力も、顧客が望む空間をつくり上げる可能性が高いのも工務店の特徴の一つです。こうした工務店の住宅づくりは、個性や自分らしさを求める現在の流れにより合っていると思います。
さらに、良い工務店に共通するのが、アフターメンテナンスがしっかりしていることです。地域に密着して顔が見える住宅づくりをしているからこそ、工務店は住宅とともに顧客を大切にし、それが将来のリフォームにもつながっています。

■工務店が地域コミュニティで担う役割とは?

「住まいで困ったことは何でも相談できる」「家の完成後もきめ細やかに密度の濃いメンテナンスをしてくれる」「住宅を建てたいけど土地がないという人のためには不動産の仲介や斡旋まで行う」。現在では、そんな工務店も珍しくなくなっています。
国内では昔は多くの住まいが貸家だったため、オーナーはいるものの、建物の管理は「家守」と呼ばれていた職人である大工などに任せられていました。現在では新しい家守の形が生まれ、不動産の橋渡しからメンテナンスまで、工務店が幅広い役割を担っています。そうした形がこれから根付いていく可能性が高いと思っています。
さらに、全国に標準的な住宅をつくるのが全国規模のハウスメーカーなら、地域の景観を形づくる役割を担うのが地域の工務店です。広島の住宅には、東京などの大都市と同じではなく、地方の独自性を打ち出してもらいたい―。工務店が地域の住環境づくりの主役になってもらわなければ、工務店の存在理由は薄れていくと考えます。災害時の対応においても、現場の最前線で活躍し、主役的な立場になれるのは地元の建設業者です。こういった工務店は、地域にとってなくてはならない存在なのです。

■工務店を選ぶときのポイントは?

近年では、工務店もハウスメーカーも実際にかかる費用の差はほとんどないと思います。工期については、工務店に比べればハウスメーカーのプレハブ工法や2×4工法でつくる家は明らかに早くなります。しかし、工期が短ければよいというわけではなく、きちんと工期が決まっていて、約束通りに引き渡せるようにマネジメントできることが大切です。
ハウスメーカーは、すべてにおいてルールを細かく決めているため施工の品質やメンテナンス対応でバラつきが少ないのに対して、工務店は、品質や建てた後の対応でハウスメーカーの水準を備える会社や、それとは全く逆の低いレベルの会社があったり、一言で言えば大きな格差があります。広島県工務店協会など業界団体に加入しているような意識の高い工務店であれば、常に新しい情報や技術に触れたり学んだりする機会があり、国の基準や動向も十分に把握しています。これらも、工務店を選ぶ際の一つの目安になると考えられます。
工務店は、基本的に地域に根ざして「家」を建てています。そのためには、地域や顧客といかに信頼を築いていくかが大切です。「家を建ててからが仕事である」と多くの工務店は話します。顧客を大切にし、アフターサービスに力を入れ、地域とどう関わっているか。さらに、住宅を介して家族の暮らしにどう関わっているのか。そうした観点で選んだ工務店は、単に住宅ではない「家」をつくることができるはずです。そして、かかりつけの医師のように、一生付き合っていける家のホームドクターのような頼もしい存在になってくれると思います。
一見して敷居が高そうに感じる方が多いようですが、そんなことはありません。多くの工務店に足を運んで自分が信頼できる会社を見つけましょう。そうすれば、工務店との長い家づくりが可能になり、これほど素晴らしいことはないと思います。